【レクチャーレポート】145~168
R145:大場玲旺
小野寺氏の講演を聞いて、環境に対して建築やデザインがどうあるべきかを改めて考え直すきっかけとなった。これまで環境にできるだけ負荷を与えないこと、そして持続可能な社会の実現が謳われてきたが、それは言い換えれば±0の発想にとどまっている。小野寺氏が語る「環境を回復させる建築」という考え方は、人間が自然の一部であることを前提に、積極的に自然へと働きかけ、失われた豊かさを再生していく姿勢であり、+の価値を生み出していく取り組みであると感じた。
大阪万博・河森館の建築も、その思想を体現している。一見すると無造作にセルが積み上げられているように見えるが、実際に入場してみると「この先には何があるのだろう」と来場者の好奇心を刺激し、自発的に空間を巡りたくなるような不思議な魅力があった。そこには単なる建築的造形を超え、人間の感覚や行動に働きかける力が備わっていた。さらにセルの構造には、海運の基本モジュールであるコンテナの生産・流通システムを応用した鉄骨ユニットが用いられている。既存の海運モジュールを活用することで効率的な生産や輸送コストの削減が可能となり、会期終了後にはユニットごと再利用する計画が立てられているという。これは単に建築を「つくって終わり」にせず、リユースやリパーパスといった循環の可能性を広げる試みであり、まさに「環境を回復させる建築」の具体的な実践例であるといえる。
自分自身も卒業設計で物流問題をテーマに取り組み、コンテナモジュールを用いた設計を行った経験がある。その際には生産性や効率性に主眼を置いていたが、河森館のようにモジュールを通じて「環境回復」や「新しい価値の創出」へとつなげる視点は、自分にとって大きな気づきとなった。
建築が存在することで、単に環境を守るだけではなく、周囲の自然や人の暮らしに新たな価値やつながりを生み出すこと。その姿勢こそ、これからの社会において建築やデザインに求められる役割だと強く感じた。
R146:小島徹也
今回のFAレクチャーでは建築家の小野寺匠吾さんより「環境の回復を目指すリストラティブデザイン」というテーマで講演をして頂いた。建築物のソフト面とハード面の両者から環境問題に向き合う姿勢がとても先進的であり、課題解決におけるリサーチの重要さについてあらためて気づかされた講演であった。小野寺氏の設計チームの一つであるoso researchではプロジェクトにかかわるリサーチや実験、協議・調整を他分野にわたりオーバーラップした業務を行っている。大学の設計課題のように本やネットで仕入れた付け焼刃のような知識だけではなく、自発的な調査を含めた幅広い知見の蓄積の先に真の課題解決があるのだと思った。具体的なソリューションとして海水を用いたコンクリート打設を可能にする技術の話がとても興味深かった。真水の節約やコンクリート骨材の有効利用へつながることから海洋国家の日本において有用にはたらく場面が多いと思う。意匠や計画面だけでなく材料の技術を用いた課題解決が実務の醍醐味であるとも感じた。
全体を通して私が最も興味を持った点は建築物の自然からの逸脱ぶりとぱっと見た時の構造的合理性を両立させようとしている点である。私は一般的に奇をてらうような構造を作るときは、見た目の不思議さを先行させるために現実的な構造部分はわかりにくくする傾向があると考えている。それに対し、建築には利用者に対して本能的な安心感を確保する必要があるという考え方が非常に興味深かった。大阪万博において様々なパビリオンや建築が出展される中である種のカウンター的な考え方であると思う。ただし、構造の一部が動く建築に関しては建築物としての合理性や利用者の本能的な安心感に相反するのではないかとも思った。
R147:橋本咲紀
小野寺氏の演説を通じて、建築を「造形」や「意匠」にとどまらず、環境やランドスケープを含む広い視点で捉える姿勢に深く共感した。特に印象的だったのは、海水を用いたコンクリートや炭素繊維といった素材への挑戦である。建築における材料は、しばしば与件として扱われがちだが、その枠組みを問い直し、新たな可能性を切り拓こうとする姿勢に、未来の建築や都市が環境とどう調和し得るかを強く考えさせられた。
さらに、設計という行為を「図面を描く」ことにとどめず、材料の調達から輸送、施工、解体、そして再利用に至るまで、建築のライフサイクル全体を意識している点には多くの学びがあった。これはランドスケープにおいても重要な視点であり、植栽や土壌、水系といった要素を計画する際にも、その場限りではなく、流通や維持管理、環境への影響を含めた長期的な時間軸での設計が求められる。演説を聞きながら、建築とランドスケープが本質的に「循環をどう設計するか」という課題を共有していることに改めて気づかされた。また、大阪・関西万博という「一時的建築」の舞台においても、解体後を見据えた素材の再利用や循環の仕組みが語られていたことに大きな刺激を受けた。短期間で姿を消す建築であっても、環境に還元されるプロセスを組み込むことで、未来へつながる価値を生み出すことができる。その思想は、ランドスケープデザインにおける「時間」との関わり方とも深く共鳴しているように感じた。
建築学生として、図面や形態に意識が向きがちな自分にとって、「建築を完成物ではなくプロセスとして捉える」という考え方は大きな気づきとなった。そして将来、ランドスケープの仕事に携わる立場からも、建築や都市を「環境と循環する存在」として理解する姿勢は必ず活きてくるだろう。小野寺氏の言葉は、建築とランドスケープを横断する新しいデザインの可能性を示唆しており、今後の自分の学びや実践に強い刺激を与えてくれた。
R148:一ノ瀬愛弓
環境の回復を目指すリストラティブデザインをタイトルに、小野寺氏に FAレクチャーをして頂いた。はじめに、リストラティブデザインとは「ヒトの活動で失われていく環境をちょっとしたデザインで回復に促す」ということで、建築に携わる私たちとって意識しなければならないものだと感じた。私がリストラティブデザインを意識すると、木を使うことや生き物に配慮した設計をする等の建築から考えることになりがちだが、小野寺氏は海水を使ったコンクリートや廃ペットボトルを利用したベンチ等の素材から建築やその先の環境を考えていた。実際、建築をつくっていく過程で環境へ悪影響を与える要素が多いため、この過程自体をデザインしていることに関心を抱いた。リストラティブデザインを意識した建築が増えることで、よりヒト以外にも優しい世界が出来ていくと良いと思った。
次に、大阪万博でのいのちの礁となる海運モジュールによるセルで空間構成された建築では、5つで1つのコンテナの大きになることでコンテナで運びやすいモジュールを持ちていた。建設において運ぶ際の排ガス等は問題になっているしし、セルの組み合わせで多様な空間をつくっていくのは統一感がありつつも多様な空間が生まれるようで面白いと感じた。機能の無い余白をつくり、利用者に用途を委ねるのはモジュールが決まっている建築においてより自由な場となりその自由さがはみ出していくことでその建築事の「らしさ」が出ていくのだろう。
建築単体を考えるのではなく、川上から考えていくことが大切だと改めて感じた公演だった。
R149:寺崎唯純
今回の講演では、小野寺匠吾氏による「建築による環境の回復デザイン」に関するお話を伺い、強く印象に残る学びを得ることができた。特に、万博で手掛けられていたパビリオン「いのちめぐる冒険」における海運モジュールや海洋資源の活用に関する説明は、従来の建築観を大きく揺さぶるものであった。これまで私は、海とコンクリートを相反する存在として捉えていた。しかし、小野寺氏が示されたのは、鉄筋ではなくカーボンワイヤーを用いた新しいコンクリート資材であり、海水を活用した建築の可能性であった。この発想に大きな衝撃を受けるとともに、持続可能な建築のあり方について新たな視点を得た。また、一見複雑に見える設計も、セルの大きさや角度を一定に保つことで隙間を生み出し内外の境界を曖昧にしながら、人の活動を誘発する計画がなされていた。加えて、施工性の高さにも配慮されており、デザイン性と実現性が両立している点が印象的であった。さらに「マリンフォレストプロジェクト」では、建築が単に機能を果たすための存在にとどまらず、その存在自体が海の環境改善や生態系の回復に寄与するという視点が示された。この考え方は、建築が社会や自然環境に与える長期的影響を考える上で、非常に示唆的であった。私は卒業設計において海中建築を提案した経験があるが、その際、環境負荷を抑える資材や手法、さらには建築が自然環境に与える影響について明確な答えを導き出すことはできなかった。しかし、今回の講演を通じて、建築と環境の関係をより前向きに捉える視座を得ることができたと感じている。総じて、本講演から得られた最大の気づきは、建築は「環境を壊さないための受け身的存在」ではなく、「環境や人々の暮らしに新たな価値を与える能動的な存在」であるべきだという点である。この考え方は、今後自分が建築に関わっていく上で大切な視点になると感じている。
R150:蓮沼志恩
小野寺氏の講演を聞いて、意匠だけではなく環境にも目を向けた設計はもちろんだが、私は特にオソリサーチスペースでの活動がこれからの建築家の在り方のひとつとして印象的に感じた。
講演では「Social Engagement (社会的に意義のあるリサーチ・企画・発信)」の中でオソリサーチスペースが紹介された。小野寺氏はこの活動を、文化が軸として場所をつくっていくプレイスメイキングのようなものだと言っていた。実際にリサーチの活動と建築プロジェクトの紹介の展示や話題の万博での設計にフォーカスした展示などを行っている。この場所には建築関係者だけでなく、近隣住民も立ち寄る場であるそうだ。私は卒業論文や研究室プロジェクトで建築家が事務所を開く事例を調査してきた。事例では飲食やレンタルスペースや宿泊施設として建築家の職能を超えた活動によって設計事務所を開くというものが大半であった。その調査からは、実際に場を運営することで設計がしやすくなったり、地域に開かれてふらっと入って来れる場所にすることで依頼が増えたり、その場を事務所のショールーム化できるという効果があるように感じた。しかし、オソリサーチスペースのような自身の設計事務所でのリサーチや設計を発表するような場を運営している事例は初めて見た。この活動は始まったばかりなのでその効果がどう出るのか今後に注目していきたいと思う。
そして私も将来独立したいと考えているが、その時はプレイスメイキングのような活動として街に開いた設計事務所をつくりたいと改めて感じた。
R151:庵本未優
今回の小野寺氏の講演ではリストラティブ、プラス方向に転ずる"回復"をテーマに、建築という創造行為がサステナブルで終わらないためのデザインについてお話をお伺いすることができた。これまでの環境へのアプローチには多くの場合、" サステナブル "という言葉が用いられてきた。小野寺氏はこの状態をプラスマイナス0の位置であると表現していたが、持続では状況の好転は見込めない、限りなくマイナスに近い0であると捉え直すことで、我々はここを超える必要がある、プラスに持っていく姿勢が重要であることを強く認識させられるものであった。
自身の卒業設計において海洋問題、海洋の生態系をとりまく環境に着目していたこともあり、紹介されたどのプロジェクトも大変興味をそそられる取り組みであった。中でもマリンフォレストプロジェクトが印象的であり、万博を通して生み出された HPCの活用方法が、創造行為が結果として自然を回復するための機関となりうるというシステムづくりに共感した。時間をかけてつくられてきた自然のようにそっと建築が順応することが、小手先だけでは終わらないデザインの形であると考えさせられ、過程に目を向けることまでがデザインであることを意識していきたいと感じた。
R152:石井琢夢
小野寺氏は、自然を破壊しながら人の領域を広げてきたこれまでの文明から、自然を回復し多様に繁栄させる文明への転換を目指している。この 回復 こそ私たちが目を向けるべき建築設計における一つのテーマだと言える。
環境への配慮ということはこれまでも多くの実践がなされてきた。しかしそのほとんどは環境に対しなるべく影響を及ぼさないようにしようという消極的なアプローチであった。今後私たちが目指すべきものは、環境に対しポジティブな影響を与えながら環境を回復していこうとする積極的なアプローチである。わたしはこのリストラティブデザインの考え方にとても共感する。
というのも、あるときから人間が自然というものに対して恐縮するような態度に違和感を覚えるようになったからだ。人間は本来自然の営みと共にあったはずである。それがいつしか自然を破壊していく人間中心の考えになり、環境への配慮を意識するようになった現代においてもまだ人間が自然界の生態系から切り離された存在のままになっている。人の行為、それが環境に及ぼす影響も自然の営みの一部と捉えられないだろうか。動物が巣を作るように、人は建物を作る。人間を生態系の一員として見たとき、自然に対し息をひそめるような現代の在り方ではなく、積極的に自然に影響を与えていこうとするあり方もあることに気づくだろう。もちろんその影響はポジティブなものである。小野寺氏がパビリオンに用いた、海水を練り混ぜに利用できる HPC (Hybrid Prestressed Concrete)はその良い例である。HPCは形状の自由度の高さや塩害の心配が無いという利点がある。そんなHPCを用いて藻礁をつくり海に沈めて藻の生息地をつくるプロジェクトは、CO2を固定することで環境回復効果を果たす。
人が築き上げてきた英知を自然のために用いて生態系の一員としての意識を取り戻す。建築分野はそれがわかりやすく実践できる土壌だと思う。環境回復を目指す積極的なアプ
ローチを実践していくために、環境に対する視野を広げていきたい。
R153:市之瀬航生
小野寺氏の講演を通じて、これからの建築やデザインの在り方について改めて考える機会を得た。これまで環境への負荷を抑えることや持続可能性の確保といった取り組みは多く語られてきたが、それは現状維持を目指すに過ぎず、自然の豊かさを再生するという視点ではない。小野寺氏が示した環境を回復させる建築という考え方は、まさにその一歩先を示すものであり、自然に対して積極的に働きかけていく姿勢の重要性を強く感じた。 特に印象に残ったのは、HPCを活用した藻礁づくりのプロジェクトである。単に人間のために建材を使うのではなく、海の生態系に新たな居場所を与え、二酸化炭素を吸収するという積極的な回復の仕組みを取り込んでいる点に強く共感した。人間の技術や知恵を、自然のために還元しながら共生していく姿勢は、建築が社会に果たせる役割の大きさを改めて示していると感じた。
また、挑戦し続けることの大切さが講演全体を通してのテーマであったように思う。マリンフォレストプロジェクトにおいても、完成した瞬間がゴールではなく、そこから自然環境が時間をかけて変化していく長期的な過程こそが重要だという視点は、自分自身の設計姿勢を問い直すきっかけとなった。建築は一度の計画で完結するものではなく、その後の時間や環境との相互作用まで含めてデザインしていく必要があると感じた。
R154:内田朔弥
今建築分野が抱えている課題として、環境問題は避けて通れない。学内の課題でも先生からの一言あるくらい念頭に置かなければならないのは自分でも考えていた。今回のレクチャー内でのリトラティブデザインは環境解決は建築だけでは厳しく、他分野の調査や実験を通して行うことが糸口になることを背景に自然が本来持つ自然治癒力の手がかりになるようなプロセス(黄色い歯車=人と自然、動物の干渉)を考えてデザインすると知った。これはサスティナブルは回復ではないといった意味合いと今後発展する社会での作り続けることが回復につながることを意図していることを知った。小野寺さんの万博への考え方は命に関するメッセージとありました。その中で4つのコンセプトを元に設計したとありました。Sellを用いたモジュールで外観と空間構成をなしており、内外を境界線を愛内にすることで空間へのつながりと入りたい、体験してみたいなどの好奇心をそそるように30度づらして集団化させて、カタチを構成していました。モジュールを細胞と見立てて、生命の拠り所とすることが小野寺さんの考えるリトラティブデザインにつながると感じました。自分も設計する際に建築の内外の曖昧にするといった抽象的な考え方をいかにデザインとしてわかりやすく表現できるかを考えた際に壁の角度や向きを、有無を考えていました。しかしレクチャーにおいてsell上のアーチを用いて空間を造り、sellの面を操作すことで仕切りの操作を方法があることがわかりこれからの設計に活かせると思いました。
また、設計はデザインだけでないことも改めて感じました。海底にある泥を使ったコンクリートや工場で造り、水路で運ぶなどの環境の配慮などもこれからの建築に必要なことであると感じた。
R155:小山内里奈
小野寺匠吾氏の講演「環境の回復を目指すリストラティブデザイン」を通じて、建築が環境とどう向き合うべきかを深く考えさせられた。特に印象に残ったのは質疑応答で、多様な人々との対話を重ねることが、新しい素材開発につながったという言葉である。その成果として示された海水練りコンクリートパネル(HPC)の話は強く心に残った。真水資源を守るという発想や、海水を使うことで逆に強度や耐久性を高められるという逆転の発想は、建築が環境を再生に導く力を持ち得ることを実感させてくれた。単なる素材の紹介ではなく、課題にどう立ち向かうかの姿勢そのものが伝わり、自分も一つの分野に閉じこもらずに広い視点で課題をとらえたいと感じた。また、小野寺氏がSANAA出身でありながら型にとらわれず、自分らしい表現を模索している点には守破離の精神が表れていた。さらに、OSO Researchの活動に見られるように、建築と研究や実験を重ね合わせながら社会や環境に働きかけていく姿勢は、今後自分が設計を考えるうえでも大きな刺激になった。
R156:北島拓弥
今世紀において建築と環境の関係は切り離せない問題となり、社会全体が建築に対して環境の観点から一定の性能を要求するようになるとともに、建築家のデザインに大きな影響を与えてきた。しかしその大半が環境の負荷を軽減する つまりマイナスを最小限に抑える-に留まり、改善する-つまりマイナスからプラスに転換する までに至るものは数少なかった。小野寺氏はこの「環境の回復を目指すリストラティブデザイン」に意義を持ち、リサーチから設計に至るまでのプロセスを踏んでいた。
小野寺氏がデザインしたシグネチャーパビリオン〈いのちめぐる冒険〉はまさしくリストラティブデザインを実現した例といえるだろう。このパビリオンは真水を使用した一般的なコンクリートではなく、海水を使用したコンクリートパネルである HPC (Hybrid Prestressed Concrete)によって構成されており、大阪湾の海水を配合している。またこのコンクリートパネルと鉄骨のユニットは規格化することで輸送コストを抑え、また万博終了後のリユースを可能としている。この建築は建築を構成する部材の材料や生産方法、そしてその運送方法や施工方法、さらには再利用の方法までが環境を回復するための重要な意義を持っており、その一つ一つが建築の価値を作り出しているといえるだろう。つまりリストラティブデザインには、近代建築では当たり前となってしまっていた生産・施工・設計の分離をもう一度繋ぎ合わせ、それらが連携することで初めて実現が可能であるものと感じられた。この姿勢は小野寺氏が設計事務所OSOに留まらず、OSO Research Space を開設し、リサーチや実験的な活動のための場所を意欲的に求めていることからも分かるだろう。
建築と環境の結びつきは今後も一層強固になるものと思われる。この課題を柔軟に解きほぐすにはこちら側の視点を広げ、現状当たり前として受け入れている土台から改善できる部分を分析し、プラスに転じていく必要性があると考える。
R157:後藤駿之介
小野寺氏の講演では考えたこと・思いついたこと・気づいたことに対して挑戦していくことは新たな結果や発見を得るためには必要であり,挑戦をしなくては何も得られないということを深く考えるきっかけになったと考える。
「マリンフォレストプロジェクト」ではコンクリートによる海洋へ向けたプロジェクト自体に興味を持った。海中に森をつくるという考えになる際に,森を完成させて終わりの計画になりやすいと思っていた。しかし,建てて終わりではなく長期的な視点でそのあとに起こる影響や計画のあとに森ができるという計画にする重要性について深く考えなくてはいけないと思う内容だと感じた。そこから自分は,設計や計画を行う際には長期的なビジョンなども考慮したうえで過程を大事にしようと思った。
「オソリサーチスペース」では1つの空間に間仕切りを通して設計事務所と自由にできる地域に開く空間の2つがあることで各機能との関わりができる内容に興味を持った。自分は1つの空間に2つの用途が混在する際に、1つが固定でもう1つが自由に変わっていくことをある一定の期間でその2つの空間の変化場所がチェンジしたりすると変化がどんどん生まれていく場所になって面白いのではないかと考えた。
講演全体を通して「あらゆる可能性に対しての挑戦」がキーワードになるのではないかと感じた。そして感じたキーワードに対して必要なこととして探求心や好奇心を持ち続けなくてはいけないと考えた。自分はやっていることに対して考え込み始め、手が止まってしまう・躊躇してしまう癖があるので探求心や好奇心をもって色んなことに挑戦していけるように努力したいと考える。
R158:中野宏太
今回のレクチャーでは「環境の回復を目指すリストラティブデザイン」をテーマに建築家の小野寺さんにご講演いただいた。本講では万博での設計を中心に手掛けられた事例を通して、小野寺さんの設計思想やアクションを学んだ。中でも、建築やデザインを通して環境を回復に導くデザイン手法であるリストラティブデザインは、これからの建築設計に不可欠であると考えた。現状の「環境のための建築」は、環境を害さない現状維持型のものが多く、人間が手掛けた人工物ではない空間を設け、その影響を最小化しようとする姿勢にとどまっている。しかし小野寺さんが手掛けた「海の森」では、海中に柱状のコンクリートを設け、そこに海藻などが住み着くことで自然の回復が促されていた。人工物が生態系に積極的に関与し、回復を支える新たなアクションであると感じた。こうした実験的な活動は生態系の回復につながると考えられる。また万博における実験的な取り組みとして、海水を用いてコンクリートを練り淡水利用を抑える工夫や、3Dプリンターを活用して建築の表面積を大きくする試みも紹介された。これらの活動を実験的建築の舞台である万博で行うことは非常に有意義であると感じた。問題や技術に向き合う能動的な姿勢が、生態系の回復をはじめ多様な課題解決につながることを改めて学ぶ講演であった。
R159:宮澤太陽
今回、小野寺氏のレクチャーを通しこれまでご講演いただいた方々の中で最も建築家というよりはデザイナーに近いと感じた。このように感じるのはOSOresearchの活動が大きい。それに加えて、建築の形態ではなく実社会に対する小野寺氏の強い思いがデザイン活動の核にあると感じたからだろう。どのプロジェクトにおいても共通する軸として自然環境を考えた現代社会に対する批評性を感じた。この2つの常に現代社会の流れを観察する姿勢と揺るがないデザインに対する軸は建築に限らずデザインに携わるべき人が持つ姿勢だと考える。
小野寺氏のプロジェクトの多くは、生態系をはじめ自然環境に重きを置いたものだった。その姿勢が建築という行為の意味を再認識する機会となった。これまでの認識としては建築という行為は人間の生活をサポートしたり基盤を作ったりするという意味が表層に存在すると考えていた。またその行為は、少なからずは自然環境へ悪影響を与える行為でありその中で、できるだけ自然に優しい建材や工法を用いてきた。しかし、小野寺氏のデザインは再生(REGENERATIVE)をめざしたもので、自然環境に影響を与えてしまう建築だからこそ、その行為によって自然環境へのポジティブな影響を与えなければいけないのではないかと問いかけられているように感じた。この考え方を都市において大規模なビルの建設にかかわっている大手ゼネコンやディベロッパーなどのデザイン関係者のマストもしくはベースに存在すれば都市の姿は持続可能性(SUSTAINABLE)を超えたビジョンを持つことができるのではないだろうか。本レクチャーは自然環境に対し手の視点の発見とデザイナーが批評性をもって活動に取り組む重要性を再認識する機会となった。
R160:相原秀星
今回は「環境の回復を目指すリストラティブデザイン」というテーマで小野寺匠吾氏にご講演いただいた。小野寺氏は大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」にて、海洋モジュールのコンテナで構成したパビリオンを設計しており、陸路での輸送を最小限にすることでCO2排出量を低減したり、通常のプレストリストコンクリートではなく塩害に強いHPCを使用したりと、素材や構成から環境に対してアプローチをされおり、さらには会期終了後にはパビリオンに使用されたコンテナをリユースする計画があることも伺った。リサイクルはほとんど最終手段であるという考えのもと、生み出した建築をリユース・リパーパスといった循環をどう産んでいくかという小野寺氏の考えと実践的な取り組みに非常に感銘を受けた。
また、HPCパネルの型枠の自由度を利用して海藻が着生しやすいデザインをスタディし、海に沈めることで海の環境の回復に寄与すべく「マリンフォレストプロジェクト」にも取り組まれており、環境をニュートラルな状態に戻すだけでなく、プラスの方向に持っていこうとする姿勢に学ぶものがあった。
小野寺氏のこうした取り組みは、建築や設計だけでなく他領域の人々と協働して研究や実践活動を行うプロジェクト「OSO Research」の活動の賜物であり、自分の専門領域外にも幅広く知識を得ることの重要性を感じた。
R161:打越優音
今回は大阪・関西万博シグネチャーパビリオンを設計された小野寺氏に講演していただいた。今回のレクチャーを通して、建築を発展させながら自然を回復することや自然と共生していくデザインの考え方や方法について学ぶことが出来た。小野寺氏はレクチャーの中で「リストラクティブデザイン」という単語を用いており、自然が持つ再生機能を使って環境を回復や再生させていくためのちょっとしたきっかけを与えるための考え方であると話していた。小野寺氏はこの考え方を用いた設計を大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンや現在進行しているプロジェクトなどで挑戦している。実例としてパビリオンの壁に用いられたHPCという建材を取り上げられおり、海水とカーボンワイヤーで作られた、鉄筋コンクリートと同じ強度で厚さ40mmの小野寺氏が開発した新しい建材である。厚さが薄いことで従来の鉄筋コンクリートよりも幅広い使い方が出来ることや海水で作られていることによる淡水の保全、厚さが薄くなることによるセメントの使用量の削減など環境への配慮も可能としている。それに加え、小野寺氏が行った実験でこの建材を海中に沈めた数か月後に生物が共生していることにとても興味を持った。こうした材料が生み出すことや考えることは簡単なことではないが、「リストラクティブデザイン」を用いた設計を自分ならどうできるか考えてみたいと思った。
R162:加藤緋奎
建築のレクチャーを受けて、建築という行為の本質について改めて考えさせられた。これまで私は、建築をつくるということが、自然環境に対する破壊行為であるのではないかという疑念を抱いていた。しかし、今回の講義を通じて、建築が環境と対立するのではなく、むしろ環境の回復や再生に寄与する可能性を持つことを知り、環境との関係性において建築が持つ可能性を感じることができた。自然は回復する力を持っており、その回復の軌道から外れてしまった状況を、建築やデザインの力で元に戻すことができると考えるとき、それは建築を学ぶ者として大きな意義を感じさせるものであった。また、レクチャーの中で印象に残ったのは、「環境」「アート」「デジタル」などの領域を横断的に捉え、実装していくことの重要性についての指摘である。多角的な視点と技術の融合の中で建築は、複数の領域を接続し、社会や環境に対して新たな価値を提案していく立場にあると考えられる。万博のパビリオンの事例も非常に印象的だった。海運モジュールを活用することで、資材の生産、輸送、解体といったプロセスの効率化を図るだけでなく、材料に海水を取り入れるという新たな試みもなされていた。万博という限られた期間や予算、法的制約の中で、いかに環境と向き合うかという問いに対して、実践的な回答がなされていた点は非常に興味深かった。
今回のレクチャーを通じて、建築の在り方次第では、環境の回復に対して積極的に関与しうることを学んだ。建築にできることの可能性を信じながら、今後も広い視野で学びを深めていきたい。
R163:白倉海翔
今回のFAレクチャーでは、「環境の回復を目指すリストラティブデザイン」というテーマで建築家の小野寺匠吾氏にご講演をいただいた。
今回の講義では、建築がもたらす環境へのアプローチなど多くの学びを得ることができた。その中でも温熱環境や構造といった意匠の分野だけでない総合的なデザインの重要性を知ることができたと感じる。
私が思うに、一般的な現在の建築とは人間が主体のものであると考えている。だが、これからの建築のあるべき姿は、地球温暖化など人類的な課題から「人間中心」ではなく、「自然との共存」なのではないかと思う。ある種、建築は地球という大きな単位で語らなければならないと思っている。その中で小野寺氏の思想は建築・デザインを通して環境に対してアプローチしていくものであり、これからの建築のあり方を学んでいるようであった。
この講演で学んだことを活かし、設計を行なっていきたいと思う。
R164:野口健人
今回は小野寺氏に講演をして頂いた。講演で一番強く響いたのは、「環境を守る」ではなく「環境を回復させる」という視点だった。リサイクルや再利用の行為は環境に優しいとされがちだけれど、それは現状維持や負荷軽減にとどまっていて、本当の意味での回復ではないのかもしれない。
万博のパビリオンで採用された海水コンクリートやセル型構造は、会期後のリユースやリパーパスを前提にしていて、仮設でありながら時間の先を見据えた建築のあり方を提示していたと思う。建築をつくることが、未来に対してどう応答するかという問いと直結していることに改めて気づかされた。自分自身の小さな選択や今後の学びも、ただ「環境に優しいかどうか」ではなく「環境を回復に向かわせられるか」という軸で考える必要がある。
公演の中にでてきたR ladderによる視点はこれからの自分の卒業制作で間違いなく必要となるものであり、どのような方式により寄与すべきか考えるかを検討するひとつの手になれば良いと感じた。
R165:羽山和
講演の中では、「サステナブル」ではなく「リストラティブ」なデザインを目指すべきだ、という姿勢が印象的であった。従来の「持続可能性」はプラスマイナスゼロの状態を目指すのに対し、「回復」まで考えることは、建築を、より積極的に社会や環境へと関与させる姿勢であると感じた。これは建築が単なる技術的な工夫ではなく、建築の在り方や役割の再定義に近しいものを感じとった。
特に、小野寺氏の考え方の中に、建築家が建築に囚われずに活動を広げ、コンサルティングや環境研究、アートやデジタル領域まで横断して関わるべきだ、という点は、建築観に限らず、自分自身の人生観とも重なる。私は、建築を形や空間に閉じ込めて考えるよりも、実際にその背景にあるプロセスや社会構造への視線を向けることが真意であると、これまでの課題に取り組んできた。しかし、思い返せば、「マイナス」を標準に戻すことへの意識で留まっていたことに気付かされた。
また、私はこれまで、環境との関わりを「建築デザインに自然を取り入れる」かその逆のような見せかけなレベルで捉えていた。しかし小野寺氏の話を聞いて、建築そのものが「環境を回復する仕組み」として機能し得るのだという視点を強く意識するようになった。建築家のエゴを前面に出すのではなく、人や環境に「行動を誘発させる装置」として設計を捉えること。講演を通して感じとったこの考え方は、自分が今後設計を進めていく上で大きなヒントになると感じた。
R166:平野鈴奈
今回ご講演いただいた「環境の回復を目指すリストラクティブデザイン」では、小野寺氏が設計した〈いのちめぐる冒険〉の計画から運営時の仕掛けを紹介してくださり、5月に行った大阪万博で訪問したかったが機会を逃してしまったパビリオンの一つであったため、充実した講義の時間であった。
講演の初めから、大阪万博の趣旨である「持続可能な社会の実現」のもと掲げられたSDGsに対し、方針が原点にとどまる「現状維持」であることを指摘しマイナスの領域への回復を提案された際に、建築や社会の地球規模課題に対する考えへの今までの疑念が払われた。
小野寺氏が設計したパビリオンと自身の事務所OSOでの取り組みで一番の衝撃であったのが、海水を利用したコンクリート「HCP」の製造と使用であった。パビリオンに使用したコンクリートは100%大阪湾の海水を公安の許可の元採水したこと。「海で広がる環境システム」をここまで建築に入れ込む考えへまとめられたことに対し畏敬の念を抱くとともに自身の設計における新規性の展開への活用の参考となった。
建築物のリユースはコスト高騰の課題点も持つが、小野寺氏は地域創生としてパビリオンが今後教育の機能も持つような建築に再生することを踏まえ万博に挑んだ姿勢を尊敬する。また、SANAAから独立をした際の設計に対する姿勢や葛藤から設計のスランプの際自身との向きあいかたをお話ししてくださり自身の設計に向き合う際の一つの方法にもなると考えた。私が建築に携わり設計を行う際、環境の面で新しい材料や考えを様々な知識と人の交流を得て申請を見出したい。
R167:山内結稀
今回は、小野寺匠吾氏による「環境の回復を目指すリストラティブデザイン」というテーマでご講演して頂いた。従来の「環境に優しい」「持続可能な」という発想からもう一歩踏み込み、人間の営みが自然環境そのものを回復・再生する可能性を持ちうるという視点は、今後の社会に不可欠だと強く感じた。
万博では、テクノロジーやデザイン、そして人と自然の共生を軸に、未来社会のあり方が多角的に提案されているが、小野寺氏の語るリストラティブデザインはまさにそれを実現するための実践的なアプローチだと思う。小野寺氏が手掛けたパビリオンの一つは、海洋輸送用のモジュールコンテナを再利用し、再構成した設計である。また、その構造に使用されているHPC(コンクリートパネル)も、環境負荷の低減や耐久性に優れた素材として持続可能性と回復性を両立する設計思想を支えている。これらはまさに、リストラティブデザインの理念を体現しているといえる。
今後の社会においては、単に技術を進化させるだけではなく、私たち一人ひとりがどのように自然や他者と関わりながら生きていくのかという視点がより重要になってくるだろう。そうした意味でも、小野寺氏のご講演は、未来の自然や環境を創っていくための貴重な示唆を与えてくれるものだった。
R168:吉野仁輝
小野寺氏の講演「環境の回復を目指すリストラクティブデザイン」を拝聴し、小野寺氏が唱える「リストラクティブデザイン」という考え方は、小野寺氏の建築家としての職能への挑戦であるというように感じられた。建築家は「建物を築くだけではなく社会を築くことができる、やらなければならない。」という強い思いが感じられ、そこに向き合うなかで現代の社会問題である環境問題に建築家の枠を超えた建築家として取り組む中で生み出された考え方こそが「リストラクティブデザイン」であると感じた。万博の設計に関してはEXPO’70からEXPO2025の変化として、EXPOのテーマが人間文明の進歩から人間社会と自然との共生であることに目を向け、自然共生の中でも大阪という小さな社会、環境の中で完結する共生への道筋を構築していることが印象的であった。また建材をコンクリートに選定し、自然と共生できるコンクリートの活用していることから、自然環境と人間社会の共生を人間社会の否定から取り組むのではなく、現在の人間社会といかに共生しながら自然との共生の道を歩むかを模索する姿勢は非常に興味深く重要だと感じた。
この講演を通して以前は大局的な視点で物事を考え動かすようなことが多かったがもっと局所的な視点で完結するサイクルやスキームが非常に重要であり、また物事を考えるときに問題点と現状に対して否定から入るのではなく、それらといかに共生しながら解決へとつなげるかに着目して今後の設計に取り組みたいと感じた



