【レクチャーレポート】86~104
R86:一ノ瀬愛弓
今回のイブニングセミナーでは、「日本の伝統を未来に繋ぐ〜現代音楽における能声楽」をタイトルに青木氏にご講演いただいた。
能についてあまり知らず、初めて実際の能という音楽に触れた。舞台にあの世と現世があり、死者を悼む話が8割と知った時は同じような話を繰り返しているのかなと思ったが、実際は死者を悼むことを基盤に様々な現代の問題を伝えていることを知って能声楽のメッセージ性の強さに驚かされた。建築を学んでいる私たちは建物を通して社会問題にアプローチするが、多くは実現しにくい建物が多く、また一般の人にそのメッセージ性は伝わりにくい。一方で能では音を介して直接聞いている人にメッセージを伝えることができるので、能は人に影響を与えやすく、今よりも身近なものになり得るものなのだろうと感じた。オーケストラと能の組み合わせでは、二人静で霊が乗り移る過程を、言語を英語から日本語に変化することで表しているのが面白いと思った。能をあまり知らない人たちからすると、英語から日本語という変化は二人静を分かりやすく表現していた。
伝え方という点で、西洋音楽と能を掛け合わせる際に能声楽の奏で方を西洋音楽よりに伝えやすくするために楽譜にグラフがあるものをみて、視覚的・直感的にわかるものは異文化が混ざり合う時に重要なものなのだろう。
R87:菅谷心洋
私はこの講演を通して、伝統を継いでいくために新しいものを生み出し、変化させるための工夫や実践方法を知ることができた。講演中にあった「住せぬは花なり」について、珍しさによる面白さや感動を‘’花‘’と呼ぶこと、「住するところなきをまずは花と知るべし」という言葉があることを知った。同じ場所へ留まるのではなく、常に変化し続けることが芸の本質であるという世阿弥の言葉である。
能は人により声域がさまざまであることや音程の違いが許容されるなど、抽象的な表現が日本らしいと感じた。加えて「作曲家のための謡の手引き」を用いて、実際に声に出して音階の感覚を理解することができて非常に新鮮な講演であった。
同じ音楽であっても世代や国、表現方法が違うものを組み合わせるときに、それらを五線譜やグラフなどの明確なもので示していたことに対して、青木さんの現代音楽へのリスペクトが感じられた。
普遍的な美しさを世界に届ける青木さんのお話から、常に変化し続けるべくは芸だけでなく、今の時代に沿わせながら新しい命を吹き込もうとする姿勢が必要だと学んだ。芸の本質に乗っ取った精神を見習い、私も誰かに感動を届けられるような空間をつくりたい。
R88:羽山和
日本を代表する能楽師である青木涼子氏のご講演を通して、能の基盤は大切に維持しながらも国や世代、ジャンルをまたいで、自らの力で新しいものを作り出す追求力と、実際の公演映像や当日会場での発声の機会を経験したことで、聴覚的にと視覚的な斬新さを感じれた。能については無知だったが、「謡(Singing)」と「舞(Dancing)」で能になるんだと、言葉だけでなく、体感的に納得できる講演であった。
講演の中で「住せぬは花なり」という世阿弥の言葉を紹介していただいたが、まさに青木氏はこの言葉の体現者だと感じた。能に留まらず、現代音楽とのコラボレーションの実現だったり、新型コロナウイルスによって海外公演中止の経験から、自分が何を武器にどんな方法で元気や勇気、世の中にプラスになることを考え、実行することの大切さを学んだ。
建築学生として、これらの学びは、視覚的な操作によって利用者の心理的な効果も期待できる設計や、新たな切り口や革新的な視座を生み出すきっかけに歴史的背景を組み込むことで説得力を高めることに活かせると感じた。
R89:蓮沼志恩
能の「謡」を現代音楽に昇華させた「能声楽」を生み出し、世界的にご活躍されている青木涼子氏の講演を通して、私は自ら変化し続けることへの学びを得た。
私は中学の頃音楽部に所属し、3年間合唱曲を歌ってきた。講演の中で実際に観世小次郎作の「巴」を「作曲家のための謡の手引き」を用いて謡う機会があったが、その発声の仕方や音階の取り方は合唱曲とはだいぶ異なり、独特の日本らしさを感じるものであった。
その後聴いた、細川俊夫氏作曲の「二人静 -海から来た少女-」は、オペラのような能のような不思議な感覚になる音楽であった。最初はソプラノ歌手の英語の歌声によってオペラのようであったが、青木氏が歌いだすと、次第にフルートが能管のように、ドラムが小鼓のように聴こえ始めた。オペラのようであるが、情景を観客に委ねるような抽象的な展開が能のようであり、能が現代音楽に昇華していることを感じた。
能という合唱曲や西洋音楽とは全く別のものを、自ら指標をつくり現代風に変化させるという活動によって、世界中に能が広まるきっかけとなり、評価され続けている青木氏から、世阿弥の「住せぬは花なり」という言葉にもあるように、留まらず、変化し続けることの大切さを学ぶことが出来た。
R90:大場玲旺
今回のレクチャーは,能楽と現代音楽を融合させた独自の表現で国際的に活躍される能楽師・青木涼子氏にご登壇頂いた。
私は幼少期からピアノを習っていたこともあり、西洋音楽と謡の楽譜の読み方が大きく異なることがとても面白く感じた。
謡は音程やリズムの指定がなく、謡う人のその日の気分で音域が決まるもので、まさにその時その時で一度きりの表現された芸術だと知ると、また受け取り方が変わる気がした。
能楽特有の静けさや緊張感と、現代音楽のダイナミックな表現が共存しており、青木氏の「声」の表現は、単なる音楽の要素にとどまらず、身体性や文化的背景を含む深い芸術的探求にの末にできた結果であり、聴く人に深い感動を与えるものであった。
私は建築学生なので青木氏の能楽と現代音楽の融合という独創的な取り組みを建築の視点で置き換えて考えてみた。能楽の「型」という伝統的な枠組みを尊重しつつ、それを現代の視点から再解釈して新たな表現を生み出している姿は、建築における歴史的な様式や地域性を生かしながら、現代的なデザインや技術を取り入れるアプローチに通ずるものがある。伝統的な建築では、静ひつな美しさや自然との調和が重視されるが、現代建築では利便性や大胆な造形が求められる。これらを融合させることで、新しい建築様式や空間体験が生まれる可能性があるだろう。青木氏のように伝統の本質を深く理解し、それを現代の感覚で再構築することが、建築においても持続可能で革新的なデザインを実現する鍵となるのではないか。
R91:寺崎唯純
今回のイブニングセミナーでは、能の「謡」を現代音楽に融合させた「能声楽」を生み出している青木涼子氏にご講演いただき、広い視野で考え新たな価値を生み出していくことが重要であるという学びが得られました。
私は、能についての知識はほとんどなく今回の講演で初めて能という伝統舞台芸術に触れました。謡の実演を交えながらご説明いただいたことで、能は「幽玄」という美学を重視し夢幻的な世界観を表現されていること、謡には西洋音楽のような絶対音階はなく調律は地頭によって決められていることから流派によって独自性が生まれるということが理解できました。また、『二人静-海から来た少女-』のように伝統舞台芸術である能と西洋音楽であるオペラは異なる文化背景を持ちながらも音楽と演劇の芸術形式が互いに影響し合うことで、新しい表現の可能性が生み出されることが理解できました。
これらのことから能声楽の表現の可能性を建築に置き換えて、伝統的なデザインの文化的価値を持つ伝統建築の要素を新素材や新技術によりデザインの自由度が増している現代建築に融合させて考えてみることで、建築様式の新しい価値を生み出せるのではないかと考えました。
R92:後藤駿之介
今回は,現代音楽で最も活躍する国際的アーティストとして活躍されている青木涼子氏にご講演をいただいた。自分は能のことをあまり知らなかったが,霊と僧侶の対話が基本になっていると聞いて少しどのようなものか聞いてみたくなった。また,ワキ方・囃子方が2時間も動くことができないと知り,物語の世界観を表現するための昔ながらの工夫なのではないかと感じた。
現代音楽と西洋音楽についてのお話では,理解しにくい現代音楽を西洋音楽のように表し,それぞれを比較しながらの説明だったためとても分かりやすくかった。また,実際に声を出す体験型の説明はイブニングセミナーでは珍しかったため,楽しみながら講演会に参加することができた。
今回の講演会で青木氏のコロナによって外出禁止になってしまった状況でも最新技術などを用いて能声楽の活動をしていたということから,どんな状況になっても物事に取り組むことの大切さを感じ取ることができた。自分は状況が変化することに対して,うまく対応できないことを恐れて取り組まなくなってしまうことが多くある。しかし,変化する状況の中でも自分のやるべきことを理解して取り組み続けていけるように努力していきたいと思うきっかけになった。
R93:小島徹也
今回のイブニングセミナーでは能声楽家の青木涼子さんより「日本の伝統を未来につなぐ~現代音楽における能声楽」というテーマで講演をしていただいた。日本の伝統芸能である「能楽」に関してほとんど知識を有していなかったため、全体を通して伝統芸能の視点から新たな気づきを得られたと感じている。
能を構成する要素である謡は音程やリズム、発声方法に縛りがなく日や人ごとに異なる感じ方となるものであり、その場所で一度きりしか体感することができないという。芸能の分野では表現者の違いが顕著に現れる反面、一般的に同公演内であればまったく同じ演技が求められる。このような点を踏まえると「能楽」という芸能は一般的な芸能とは異なりその場限りの空間を体験する刹那的なものであると感じると同時に、変化が生じやすいことから多文化との共生がしやすいものであると思った。また、謡の稽古では日によって異なる指導を受けることが多いとされている。建築のスタディ作業においても様々な視点からの指摘を受け、異なる指導を度々受けることがあることから、答えが一つではない表現の中で情報を取捨選択し自分に落とし込んでゆく過程に「能声楽」と「建築」に通ずるものがあるのではないかと感じた。
今回のイブニングセミナーは建築の話題とは少し遠いものであったが異分野の内容に触れたことで新たな視野が広がったように感じた。
R94:市之瀬航生
今回は、能の謡を現代音楽に融合させた能声楽を生み出し、ヨーロッパを中心に世界で活躍される青木涼子氏にご講演いただいた。私は今回の講演を聞くまで能というものについてあまり知らなかったが、西洋音楽のように楽譜に残すものとは違い、能声楽は師匠に習うもの、音程に決まりはなく日によって音程が変わることもあるという話を聞き、どのようなものかと興味が沸いた。実際に見せていただいた「二人静-海から来た少女-」では、二人の表現の対比が面白く、見せ方が違うことでメッセージ性も変わってくると感じた。また、男女の霊が絡む悲劇的な物語に青木氏の繊細さと力強さが調和していて、空間に溶け込むように広がる声の表現力に驚きを感じた。
建築と能声楽に通ずる部分として、「調和」と「バランス」があると考える。能声楽では、声のトーンや抑など調和することで、観客に深い印象を与えている。このバランスを欠くと感情がうまく伝わらず、逆に不自然な印象を与えてしまうのではないかと思う。建築においても、デザインの調和や空間のバランスが不可欠であり、ファサードや内装、光の取り入れ方、素材の選定などが調和していることで、利用者の心地よさにつながるのではないかと考える。調和とバランスがメッセージ性をもつ建築を設計するうえで意識していきたいと思う。
R95:石井琢夢
講演のタイトルにある「日本の伝統を未来に繋ぐ」を実現するためにはどのような手法があるのかに着目して講演を拝聴した。伝統文化の担い手の減少によって、日本の美しい文化が失われていく現状に何かしたい思いを抱えつつも、何もできない無力さを感じてきたところだったので、貴重な学習の機会だと感じた。
青木さんが行っている能の文化を未来に繋いでいくための活動のうち、印象深かったものが二つあった。ひとつは現代音楽とのコラボレーションである。能で用いる声は、現代音楽におけるソプラノやアルトのようなパートに当てはまらない独自の高さを持つ。能が現代音楽に入りこむと新たな声域をつくれるという話だ。現代の道具や技術を用いて伝統文化をアップデートするような事例は多くあると思うが、その逆のアプローチ、伝統文化によって現代文化を新しくしようという発想はとても新鮮だった。もうひとつは海外との協働で継承していこうというものだ。考えて見れば日本人より外国人のほうが日本の伝統文化に興味を示しているのかもしれない。国内で粛々と受け継がれてきた文化であるがゆえ、海外に出ていくということに初めは反発の思いが湧くかもしれない。しかし文化が廃れていく現状を打開するには思いきりも必要なのかもしれない。視野を広げることで、文化が繋がっていく未来を切り拓けないか、あらゆる伝統文化において考える価値があるだろう。
R96:宮澤太陽
今回、「日本の伝統を未来に繋ぐ~現代音楽における能声楽」というテーマで能声楽を生み出し世界的にご活躍されている青木涼子さんにご講演いただいた。「能」には、小学生の修学旅行で体験したことはあったが背景や技術などの知識はなかった。そのため、終始新鮮な感覚で拝聴することができた。
「能」における「詩」には音程やリズムに決まりがなく、歌い手やコンディション、習う師によっても変化する。これらは、厳密な決まりが多くある西洋音楽とは対照的だと感じた。それは、2つの楽譜を見ても明らかであった。演者による、謡い方や演じ方の違いが能の魅力の1つだと感じた。講演のテーマである「日本の伝統を未来に繋ぐ」の実現に関しても非常に興味深かった。伝統文化の継承というと昔の姿をありのままに教え伝える、当時の生活や文化を体験してもらうことが多いように思う。それらは大切なことではあるが、青木さんのような伝統文化を用いて現代文化を進化させた「能声楽」や積極的に海外の楽団とのコラボレーションという活動を行うことで、国内外問わず老若男女に継承され未来に繋ぐことができるのだろう。このような活動が、伝統文化の継承と同時に新たな文化を生み出すことにもつながっているのだろう。
R97:庵本未優
今回は能声楽家として現代音楽シーンにおいて国際的に活躍されている青木涼子氏にご講演いただきました。同じ古典芸能である狂言は観覧したことがあったのですが、取り扱う内容や表現方法の違いがあるという点しか知らなかったため、舞台のことだけでなく「謡う」体験を交えながらの講演は新鮮で興味深いものになりました。
私は中学と高校で吹奏楽部に所属していた際に、音は声を使って歌うことができてはじめて楽器を吹くときの表現に繋げることができることを身をもって経験し、その表現が音色の違いや曲の雰囲気として音に現れると感じてきたため、声を使った表現自体に大きな共感がありました。一方で「謡」は音階ではなく発声方法や抑揚によって声に変化を持たせてメロディによる感情の誘導が少ないところを、現代音楽との融合が自然と想像力を掻き立てるように組み合わさる様子から、こうした変化が文化として継承されていくのだろうと感じました。青木氏の生み出した「能声楽」という文化は一見斬新な発想に思えて「住せぬは花なり」の言葉通りであり、建築に限らず変化し続けることの大変さと大切さを学ぶ良い機会となりました。
R98:打越優音
今回の青木氏の講演を通して、謡と舞によって構成された能と西洋クラシック音楽分野の20世紀から現代までに至る現代音楽を組み合わせたことで、現代音楽のクラシック分野に大きな影響が与えられたことと、抽象的な表現によって見ている観客によって受け取り方が全く異なる能と決まった音階によって奏でられていて見ている観客のほとんどの受け取り方が変わらない現代音楽という真逆のものが組み合わせるという新しい発想の知見を得ることが出来た。建築とはあまり関わりのない話ではあったものの、上記のように全く異なる世界の全く異なる表現方法を組み合わせてみようという発想は、今までの自分にはない発想で、建築で設計などを行っている際にもそういった発想に至ったことはなく、決められた一つのもので設計を完結させたりすることが多かったため、こうした発想を自分のこれからの設計にどのように落としていけるのかを考えるいい機会となった。
R99:白倉海翔
今回のレクチャーは、現代音楽×能を融合させた独自の表現で国際的に活躍される能楽師・青木涼子氏に講演していただいた。
能とは、深みを持った芸術であった。謡には西洋音楽の様な絶対音階がなく、「さらり」など独自の手法を持っていた。その芸術を分解し、現代音楽と融合させることは新たな表現を感じさせるものであった。私が学ぶ建築では、建物という形で表現することができる。また、人の営みなど形で表現ができないものを作り出すことができると思っている。
今回の講演を終え、形ではない現代音楽×能という芸術を学べたことは新たな発想のきっかけになると感じることができた。
R100:野口健人
今回は、青木涼子氏より「日本の伝統を未来に繋ぐ~現代音楽における能声楽」というタイトルで講演していただいた。私は狂言を見たことがあったが能というものがどういうものかを知らずよく似たものであると思っていたが、講演を聞き実際は違っていることが分かった。講演を通じ、能の伝統的な声楽と現代音楽の融合が生み出す新しい表現の可能性について深く考えさせられた。能が持つ抽象的で解釈の余地が広い表現と、現代音楽が持つ構造的で緻密な作曲技法。この両者を結びつける試みは、一見相容れない要素を結びつけ新しい芸術領域を開拓する挑戦であるのではないかと感じた。
また、建築分野においても異質な要素を組み合わせることで、今までにない空間や設計手法が生まれる可能性を再認識した。固定概念にとらわれることなく、異なる分野の表現や技術を積極的に取り入れることが創造の幅を広げる鍵となることを学んだ。特に自分は何か特異的なコンセプトを取り入れ設計するのが苦手であるが、音に着目し設計を考えるのも一つの案であると感じた。この講演をきっかけに、自らの設計にも異なる文化や表現を取り込む視点を取り入れ、新たな価値、そして空間を生み出す挑戦をしてみたいと思った。
R101:橋本咲紀
今回は能の「謡」を現代音楽に融合させた「能声楽」を生み出し、現代の作曲家を惹きつける能声楽家の青木涼子氏にご講演いただいた。日本文化とヨーロッパの文化であるオーケストラと共演がどのように共存できるのかを知る機会となった。能の仕組みから音楽としての能の在り方を知ることができた。もともと音の取り方が独特だと感じていたが、日によって、体調によって音が変わることが非常に興味深かった。音楽をたしなむ身から日本の音楽の特徴を知る機会となった。建築の分野に重ねてみると、普通ではない何かを編み出すことと青木氏が行っていることは似た部分があるように感じ、物事の可能性は決めつけるものではなく、自分自身で広げていくものだと再確認することができた。
R102:相原秀星
今回のイブニングセミナーでは、能楽と現代音楽を融合させた「能声楽」を生み出し、現代音楽の著名な作曲家たちとコラボレーションをされ、国内外問わずご活躍をされている青木涼子さんにご講演いただいた。
能には、相対的な音階はあるものの絶対的な音程やリズムがなく、謡う人やその日の気分などにより変化することや、文字のみで構成された謡本という本や稽古によって受け継がれている事をお話しいただいた。これは、西洋音楽という、音程、リズム、テンポ、抑揚などが細かく指定され、楽譜に残されている音楽とは全く性質の異なるもので、青木さんがされている能と現代音楽との融合は非常に挑戦的な試みであり、まさに能の大成者である世阿弥の残した「住せる所なきを、まず花と知るべし」という言葉を体現されていると感じた。
今回の講演から、「型」を受け継ぐということは重要ではあるが、それをさらにどのように進化させていくのかという姿勢が大切であると感じた。青木さんは伝統的な能を学んだ上で、より現代に合わせた能のあり方として西洋音楽とのコラボレートという新たな型を作られている。私たち建築を学ぶ者にとっても、新たな表現を生み出すための思考やアプローチとして非常に参考になるような講演だった。
R103:山内結稀
今回のイブニングセミナーでは「日本の伝統を未来に繋ぐ」というタイトルで青木涼子氏にご講演をして頂いた。能に関する講演を聴いたことで、能という舞台芸術に対する理解が深まった。能ではあの世とこの世をつなぐものが舞台であり、現世と霊的な世界を結びつける神秘的な空間になっている。その空間に身を置くことで私たちはただの観客ではなく、物語の一部になり、心の奥底に触れるような感覚を覚えているのだと知った。
また、青木氏は能が持つこの独特の神秘的な空間の中で、死者の霊が現世に姿を現し、そして生者との対話を通じて解放される様子を描いていることを説明していた。能の舞台では、世界と現実の境界を曖昧にし、一つの物語が流れていくような感覚を味わうことができる。この神秘的な空間に引き込まれることで、観客は日常生活を離れ、別の次元の世界に誘われるような体験をするのだと感じた。能は長い時間をかけて伝えられ、今なお受け継がれ続ける美の伝統であり、何世代にもわたって育まれてきた価値の高いものであるということを感じ、たくさんの学びや知見を得ることができた。
R104:平野鈴奈
今回は能の「謡」を現代音楽に融合させた「能声楽」を生み出し、国際的に活動している青木涼子氏にご講演いただいた。日本の伝統的な音楽を継承する者が減少している中で現代音楽と調和し、時に区別を測りながら共存を試みる能は新しく、また斬新で、世界中の作曲家や現代を生きるものを引きつけるものだと認識した。
今回の講演をはこれまで能に対して抱いていた印象が覆される機会にもなった。能や歌舞伎など、日本の伝統的な芸術に触れる縁がなく、能に対しても説明できるほどの知識がなかった。しかし、今回の公演にて能の八割は物語の流れ・傾向が同じあることや役割も4つと基礎がある一方で脳の楽譜は西洋音楽とは異なり、音程が定められてなく自由度があることが脳は定まっておらず、能楽師のその日の体調や整体の音域で左右するという知見を得ることができ非常に有意義な時間であった。
これらのことを踏まえ、自身の専門分野である建築においても、「伝統を保守しつつ、現代のものに融合させる」ことを要素や手法を用いて設計し、挑戦を試みたい。