【レクチャーレポート】169~203
R169:一ノ瀬愛弓
公演内での「動いているものとして建築を捉える」というフレーズが印象に残った。わたしたちに身近な住まい、学校、職場などの建築は不動なもので、堅苦しく、不変である 。そのような空間はつまらないと感じてしまう。今回のタイトルにある「一本の針金」から構築されていったシグネチャーパビリオンは、大屋根と室内空間に柱が無いという特徴があった。私は、実際に大阪万博でいのちの動的平衡館を訪れていたのだが、手作業でスタディされた動的な空間と、展示内容と建築空間がマッチした空間を体験できたことに改めて嬉しく思えた。柱が無い空間をつくろうとすると、梁などの他の部材が目立ってしまうことが多い。しかし、動的平衡館の屋根は軽やかに見え、優しく包み込まれた安心感の中で展示をみることができた。この屋根がもし堅苦しいものであれば、展示内容が心に訴えかける力も弱くなってしまっていたのではと思い、この建築を成り立たせるための多くのスタディや構造解析の軌跡に尊敬の念を抱いた。大阪万博という、仮設建築だからこそ挑戦し完成した建築だが、大阪万博を通じて動的平衡館のような滑らかで、包まれた、内部にいて心が休まる建築がより広まることを期待したい。
また、公演内で様々なスケッチを見せていただいたが、昨今の 3D では出せない味や人間くささが提案力には大事なのだと改めて感じた。同じ視点に立って考えているかどうかが、3D とスケッチではスケッチの方が魅力的に感じてしまうのは人の働きが表現に見えるからなのだろう。建築に携わる者として、技術の発展と人間だからできることを上手く使い分けていきたい。
R170:宮澤太陽
今回、橋本氏の講演を聞き建築を作ることやデザインすることの楽しみ方を再確認する機会となった。講演会を通して、純粋に建築を楽しみながら設計を行っていることが伝わってきた。
万博の「いのちの動的平行」では、実直にものづくりに向き合いながらもその裏で、社会からのプレッシャーと向き合っていたことが印象的であった。このような、建築やものづくりをする際に社会性や意義などが必要以上に問われることは大阪万博を契機として今後、増加するのではないだろうか。SNSやインターネットが普及したことで、建築に関わるか否かに限らず簡単に、または無意識的に建築プロジェクトに触れる機会が増えた。その結果、建築に間接的な距離感で触れる人が増加し、建築の見られ方や捉えられ方も多様化しているのではないだろうか。そんな社会の中で、建築を行うにあたって橋本さんは以下のような考え方を持っており、その言葉に私は強く心を動かされた。「建築やデザインを提案するにおいて、経済性や社会への影響はもちろん重要である。しかし、設計者の感や感覚的な好みのほうがより説得力がある場面がある。」前者を重んじつつ、後者を胸に止めておきたいと思う。前者だけが求められるならば、誰がデザインしても同じような提案になってしまう。ものづくりの面白さは、作り手のこだわりや好みなどが作られるモノに現れ、作り手の人間性がそのものからにじみ出ることではないだろうか。自分が作りたいものを作るためにも実力をつける必要があるとも感じた。
私にとって非常に良い機会であり、このときに感じたことや考えたことを胸に建築に向き合いたい。
R171:野口健人
今回は橋本氏に講演をして頂いた。最も印象に残ったのは、パビリオンの設計プロセスにおいて、全体の形態がある程度決定してからの圧倒的なスタディの物量である。
スライドに映し出されたのは形そのものが大きく変わっていないにもかかわらず、プロポーションやディテールを極限まで微調整し続けた膨大な軌跡であった。一見すると変化の少ない作業に見えるかもしれないが、その反復の中にこそ、建築の質を左右する決定的な差が生まれるのだと痛感させられた。そこには、妥協を許さない設計のプロフェッショナルとしての凄みと意地が凝縮されており深い感銘を受けた。
また、橋本氏の作品を俯瞰したとき、奇抜な形態操作はなされていないにもかかわらず、設計者の意図が極めて明確に伝わってくる点も特筆すべきである。これは、外観やインテリアを複雑に操作せずとも、思考の密度を高めることで卓越した建築は成立するということであり、訪れる人の感覚に深く訴えかける力強さがある。これこそが、まさに自分の建築が目指すべき境地であると再認識した。
現在、私は卒業設計に取り組んでいる最中であるが、今までの自分の設計プロセスとして形が決まったことに安住してしまう弱さが自分にはあったかもしれない。今回の講演を経て、大枠が決まった地点はゴールではなくそこからが本当の勝負なのだと気付かされた。残された期間、橋本氏のように徹底的なスタディと微調整を繰り返すことで自分の設計意図をより純度高く空間に定着させ、建築としての強度を高めたいと強く思った。
R172:大場玲旺
橋本氏の講演で特に印象的だったのは、大阪万博「いのちの動的平衡館」において、生物学者・福岡伸一氏が提唱する“動的平衡”という生命観を、建築という形で具現化しようとしたという点である。建築は一般的に静的で不変な構造物として捉えられがちだが、橋本氏はそれを「一瞬のバランスの上に成立する動的な存在」として再解釈し、“建ち続けるために動き続ける”という新しい建築観を提示していた。
柱を持たない膜状の屋根構造や、張力のみで成立する構造システムは、生命が恒常性を保ちながら絶えず変化し続ける姿を想起させる。哲学的概念を、構造・テクノロジー・空間表現の三方向から真摯に統合しようとする試みは非常に知的であり、建築が思想を媒介する装置になり得ることを改めて示していたと感じた。
もし私自身が「動的平衡」をテーマとして設計に取り組むとしたら、どうしても“何かが動く”“目に見える変化をつくる”といった直接的な表現を考えてしまいがちだ。しかし、いのちの動的平衡館では、そうした表層的な演出ではなく、構造的必然性や空間のあり方そのものに「同時性」「持続性」「一瞬の連続性」といった時間の概念を内包させている点が興味深い。これは、まさに“時間を建築化する”試みともいえるだろう。
私は現在、修士設計で「時間を感じ取る建築」をテーマに展示空間の計画を進めている。今回の講義は、時間性を空間にどのように織り込むかを考えるうえで大きな示唆を与えてくれるものであり、今後の設計において重要な参考になると感じた。
R173:寺崎唯純
今回の講演では、橋本尚樹氏にご登壇いただき、万博で手掛けられていたパビリオン「いのちの動的平衡館」は、生物学者の福岡伸一氏が提唱する動的平衡という生命観を、構造・素材・空間の関係性そのものに落とし込むように設計されたプロジェクトであった。
講演の中で写真や図を見せていただく中で、特徴的な曲線の屋根がどのように成立しているのかという点が印象的だった。外形としては軽やかで滑らかに見える一方で、どのような構造的原理が背後にあるのか直感的には捉えきれず、まずその成立の仕組みに興味が向いた。そこに対して示された答えが、「一本の針金」から発想を広げるという設計プロセスである。針金を指で曲げ、互いに押し合い支え合う状態を観察しながら、力が流れ続ける関係性そのものを形の源として捉えていくという考え方が非常に新鮮だった。針金を用いたスタディでは、形が固まるよりも前の揺れ動く段階に意味を見出しており、その一連の試行が最終的な屋根の曲線へと連続的につながっている点が印象的だった。また、手作業の模型や針金による検証を重ね、その後に構造解析で合理性を整えていくというプロセスにも、動的平衡の思想とのつながりを感じた。揺らぎや偶然を受け入れながら、必要な部分にだけ確かな裏付けを与えていく姿勢は、変化と安定のあいだで成り立つ生命のあり方にも通じている。こうした設計のプロセスを知ることで、形の背後には、単に合理性や構造的な解答だけでなく、試行錯誤の中で生まれる気づきの積み重ねがあることを強く感じた。今回の講演で得た最も大きな学びは、明快な答えに早くたどり着こうとするのではなく、素材や力が示す微細な変化をじっくり観察し、そのプロセス自体を設計の一部として扱う姿勢である。はじめから完璧な形を求めるのではなく、試しながら動きの中から必然的な姿を見出すような設計態度を意識していきたい。
R174:蓮沼志恩
橋本氏の講演を聞いて、意匠と構造を同時に思考する姿勢、そして建築家としての“構え”そのものが強く印象に残った。
2025年は大阪万博をめぐり建築家への批判を耳にする機会が多く、一般市民が建築に向ける関心がここまで高まった年も珍しいと感じている。そんな状況の中で橋本氏は、分子生物学者の福岡伸一氏がプロデュースする「いのち動的平衡館」を設計し、一本の鋼管とそれらを繋ぐケーブル張力のみで自立させるという、無駄のない少ない部材での構造を実現した。橋本氏は講演の中で「生物が作る構造は無駄がない。生命が作る形はあらかじめ壊されることが予想されてできている。部分もないし途中もない、できたらできたという作り方は生命的である。動的平衡とは変わり続けることであり、このパビリオンは構造的に動いているものとして捉えたかった。」と語られた。この言葉からは、構造と意匠、そしてコンセプトがほんの数本の部材によって束ねられていく“実直さ”のようなものが感じられ、本万博で重視されたSDGsの思想も織り込まれていることが伝わってきた。
さらに印象深かったのは、質疑応答でのやり取りである。「SNSの普及によって一般市民と建築の距離が近くなり、批判に晒されやすい現代において、建築家はどうあるべきか」という質問に対し、橋本氏は「公共建築では経済性や社会性を考えることはもちろん大切であるが、設計者自身の好みを伝えるほうが、結果的に説得力を持つことがある。」と答えていた。学生という自由な立場でありながらも、社会性を気にしすぎていた私にとって、非常に勇気を与えてもらえるような言葉だった。主張とは、必ずしも社会性の対極にあるわけではない。むしろ、自分の美意識を明確に伝えることが社会に届く場合もあるのだと励まされたような感覚であった。
橋本氏の講演で感じた2つの姿勢を今後の設計に取り込みながら、自分なりの建築へ向かっていきたい。
R175:庵本未優
今回は「一本の針金」と題して、建築家の橋本尚樹氏にご講演いただいた。この講演を通して私が印象的に感じたことは、合理と非合理のバランスがいかにして考えられるべきかという点である。橋本氏が万博で設計された「いのち動的平衡館」は、生物学者の福岡伸一氏が提唱した生物学の概念を、建築として空間に落とし込んだものであった。この“いのち”や“動き”を構造として表現することは一見非合理的に思われながらも、これを逆手に取ったようなうねる構造体によって最小の部材で最大の効率を得ることができるように組まれたところに合理性が生まれていた。同時に、生命体が絶えず自らを再生するための自然界の原理の合理性に即したものであると感じられた。
また各プロジェクトを通じて、形式的な説明よりも想いや表現の仕方を発信することに重きを置く姿勢や、スケッチのようなイメージを介してクライアントと向き合っていく様子からもまた、正解や完璧、合理性ではなく、余地を与えるある種の非合理さを捉えることができたように思う。その非合理というものは万博においては泥臭く向き合った構造であったかもしれないが、この非合理の先に合理があり、一方でこの合理が非合理な想いや表現と作用しあっていると感じた。
R176:石井琢夢
建築と自然界の関係を問い直そうというテーマは今やありふれたものになっているように感じる。資本主義経済の中で自然環境への配慮を度外視して建築を作ってきた過去を省み、現代では環境への配慮や自然との調和を意識した建築を作ろうとする動きが多くある。地中環境を考えたり、建築を自然の循環の中に位置づけたり、雨や風、太陽などの自然の要素を暮らしに取り込む仕組みを作ったりと、これまで様々な試行がなされてきた。それらを俯瞰してみると、どれも“建築は建築”、“自然は自然”と、建築と自然とを切り分けて考えているように見える。もっと根源的に、生命的な建築を考えることはできないだろうか。
橋本氏が設計したいのちの動的平衡館「エンブリオ」は、まさしくそのテーマに真っ向から向かっていった建築と言えるだろう。細胞に溝が出来、今まさに細胞分裂を起こそうとしているかのように見えるその建築は、二つの生命的要素を持つ。
一つ目は、少ない材料、弱い材料の集合によって軽くつくられているという点だ。いのちの動的平衡館のプロデューサーである福岡教授は、生物が作る構造はバランスがとれていて無駄な部材がないと述べている。有機的な形態を持ち、その全体を膜が覆い、さらにそれが
無駄な部材なしに成立している。力の平衡状態という生命としての性質が建築を形作っている。
二つ目は、仮設建築であるということだ。つまり、壊されることを予定してデザインされている。この“壊されることが予定されている”というのは生命が持つ性質そのものである。福岡教授は動的平衡を、「生命が絶え間なく自らを壊しながら作り直すことでバランスをとっている」性質として説明している。橋本氏は仮設という制約を、生命を表現する要素として捉え直し、建築に昇華している。
建築と生命の関係を見つめ直すのではなく、そもそも建築を生命として捉えること。その先にどのような建築が生まれてくるのか。建築の未来に創造が膨らんだ。
R177:市之瀬航生
橋本氏の講演を通じて、生命がもつ動的平衡の側面から建築を考え直すという視点から固定的に見えていた建築を改めて考え直す機会となった。一本の針金が押し合い支え合うことで形を保つようにどの部分も欠けることなく力のバランスの上で成立する構造は、生命そのものの在り方に近いと感じた。建築は外的要因に耐えるよう頑丈さを求めがちだが、生命は壊されることさえ前提にして形をつくる。その柔らかさや一体性を建築にどう取り込むかという問いは、新しい視点を持つきっかけとなった。また、「構造をつくっているのではなく、建築をつくっている」という言葉からも建ち上がる姿そのものから構造を考える設計の自由さを講演の中から感じた。合理性の前の形が揺らいでいる段階の思考が建築の可能性を広げると感じ、設計者自身がつくることと対話し続ける姿勢の重要性を学ぶことができた。
PJTの紹介では、初期段階は手描きのパースを使い、議論が生まれやすい余地を残すという方法をとっており、建築を生命的なプロセスとして扱う姿勢とつながっているように感じた。生命のように変化や不均衡を抱えながら成立する建築の可能性を改めて考えさせられる講演だった。
R178:内田朔弥
今回のレクチャーで剛性、非剛性によるデザインの確立を学びました。自身が設計する際に柱をグリッド状で配置することで今まで硬い外観の中に内装や空間を柔らかく使いやすいように考えて設計していましたが、柱があることで視覚的に固い部分はありました。近頃の建築は外的な要因に対する反発として耐震や耐火構造などのかたい建築が見えますが今回のワイヤー同士の剛性による構造は細胞などの動的な発想や思考からくるものであり、剛性と非剛性の関係と部分も途中もないバランスのとれた内外装ができるとわかりました。構成原理といった課題を通して、物事の携帯要素を読み解き建築空間に落とし込んだ際に動的中形の抽出ができなかったが今回のやり方もあるなと分かった。
また橋本さんの他の建築と学部生時代の考え方として「自然の流れゆく時間に対する想い」から今の設計が来ていると感じました。山梨県の村役場などの地形や文化、歴史を読み解き、斜面と一体化した建築と災害リスクを踏まえた部材選びなどがあると実感しました。
R179:小山内里奈
今回の橋本尚樹氏によるイブニングセミナーでは、「一本の針金」という軽やかな造形の裏側に潜む、精緻な構造的思考に大きな刺激を受けた。一見すると自由曲線のように見えるパビリオンの形態は、細胞が分裂するような生命的な軽さを備えている。しかしその佇まいは偶然ではなく、3D解析を用いて力の流れを捉え、弱い材料でも成立するよう緻密に調整された動的平衡の上に成り立っていることを知り、建築の可能性を新たに感じた。
建築は本来、倒壊を防ぐために堅牢さが求められ、生命的で有機的な「壊れることを前提とした構造」とは本質的に矛盾する。だが橋本氏は、動的平衡の視点から建築を見直し、形の必然性を長い時間をかけて検証することで、その矛盾を乗り越えようとしている。やりたい形が先にあり、それに構造が応答するという姿勢は一見感覚的だが、実は強い論理と粘り強い試行の積み重ねであり、設計の本質を突いていると感じた。
質疑応答で特に印象に残ったのは、橋本氏が「デザインは理屈よりもフィーリングが大事」と話されていた点である。建築としてどんな意味があるのかを考えるだけでなく、見る人や使う人がどう感じるかを大切にする姿勢は、万博パビリオンのように多くの人が訪れる建築では特に重要だと思った。建築がまるで生き物のように見えるのは、構造の考え方とデザインの感覚がうまく重なり合っているからだと気づくことができた。
今回の講演を通して、形の面白さや感覚的なアイデアと、構造の必然性は対立するものではなく、時間をかければ一つにつなげられるということを学んだ。
R180:北島拓弥
今回の大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」にある通り、持続可能な社会を目指す今日において、いのちの在り方や紡ぎ方について考えを巡らせることは新たな価値観や科学技術に溢れた未来を実現する上で不可欠なことであると感じられる。その万博に立ち並ぶパビリオンの一つ、橋本氏が設計を担当し、生物学者の福岡伸一氏がプロデュースした「いのち動的平衡館」は、生命が絶え間なく自らを壊しながら作り直すことでバランスを保っている状態、つまり〈いのちの動的平衡〉を表現した建築である。
このパビリオンの最も興味深い点はやはり建築の輪郭を形造っている「一本の針金」であると感じられた。それは自らのバランスを自らが取る〈いのちの動的平衡〉の考えのように、三次元的にうねりながら力を打ち消し合うことで、あたかも一つの細胞のように均衡を保っているようにみえる。そしてそのうねりによって、膜で出来た天井面の高低差が生まれ、パビリオン内部の展示空間で行われる光のインスタレーションをより幻想的なものにしている。また、うねった鋼管のよってパビリオンの内部空間と外部空間にもバランスが生まれ、相互浸透するようにその境界が曖昧に感じられることもこのパビリオンのテーマを来場者に体感させる要因になっているに違いない。
橋本氏は自身が設計されたこのパビリオンを「うつろう建築」と称されている。この建築が大阪・関西万博の開催期間のみでの存在であることもその意味を大きくしているが、ではパビリオンではない一般の建築において「うつろう建築」はどう実現可能であるか。それはやはり福岡伸一氏の言葉の中にヒントがあるように思う。福岡氏は「生命は利己的ではなく利他的で相補的な存在である」と述べている。これを建築に置き換えると、それは内部のために閉じたものではなく内部に閉じつつも外部にも開いたものであること、また建築も一つの生命と捉え、建築に住み利用する人々が建築に守られながら過ごすとともに自らが建築を持続的にメンテナンスしていくこと、そしてその役目を終えたとき、また新たな別の何かに再利用可能なものであることなど、持続可能な社会に向けて建築が目指すべき未来像が浮かんできたように思えたのである。
R181:小島徹也
本日のイブニングセミナーでは「一本の針金」というタイトルで建築家の橋本尚樹さんよりご講演をいただいた。橋本さんの万博作品である命の動的平行館は実際に訪れたことのあるパビリオンであるため、解像度の高いイメージを持ちながらお話を伺うことができた。生命的な柔らかさを表現するというオーダーを度重なるスタディを通して愚直に創り上げた点から若くして万博パビリオンの設計者という大役を担った橋本さんの意地と使命感のようなものを感じた。
今回の講義で私が最も興味を持った点はコンピューターや模型で再現する曲線や曲面の構造物が現実的なマテリアルにおいて必ずしも再現が可能ではないという点である。橋本さんは針金でのスタディの形状を鋼管で再現する際に日本国内で曲げられる最大の角度で曲げたとしていた。実務において形状を検討する際はマテリアルの特性も考慮に入れる必要がある。前衛的なデザインが求められるパビリオン建築において材料の特性は大きな障壁になりうるのだと感じた。
今回のレクチャーでは万博パビリオンに加え丹波山村の役所や成田市の幼稚園など過去事例の解説が多かったため橋本さんの建築思想にはあまり深く触れられなかった。もし機会があれば修士論文の内容も踏まえたうえで学生時代の思考がどのように実務に生きてきているのかを伺いたいと思った。
R182:後藤駿之介
橋本氏の講演で紹介された建物について絵を描いた時点から最終段階に向けての部分で形に大きな変化が発生しないことについて興味を持った。講演での説明には絵を描いてからそのあとどのような工程を経て完成に至ったかの説明だったが,絵を描くに至るまでにどれだけの困難があったかも気になるような内容だった。自分は,この話から授業ではなく実際には期限や制限があり多くの苦悩があるのだろうと思った。また,絵を描く前段階を長い期間繰り返しているのだろうと思った。今回の講演では見えない努力の部分が感じることができる内容でもあったので,自分は今回の講演やその後の質問で聞いた話を意識して取り組んでいかなければならないと考えた。
また,説明段階で絵を描いていると聞き,絵を描くことを重視している理由として意見が伝わりやすく意見を出してもらいやすいためだというものがあったが,自分は注意しないといけないと考える内容であった。自分は表現するときにどうしても3Dなどに頼ってしまうことが多いので相手が意見を出しやすく,伝わりやすいようにする努力を学びながら実践していかなければならないと思った。
R183:中野宏太
R184:相原秀星
今回は『一本の針金』というタイトルで、建築家の橋本尚樹氏にご講演いただいた。
大阪・関西万博シグネチャーパビリオン『いのち動的平衡館』では、生物学者の福岡伸一が唱える、生命が身体の組織や細胞が常に壊され新たに作られながら全体としてバランスを保っている『動的平衡』という考えを建築によって表現している。私自身が設計を行う際、構造的に成り立つのかどうかに意識が向いてしまい、どうしても硬い素材で頑丈に作ろうとしてしまうが、橋本氏は3Dによる構造解析によって、鋼管のリングとワイヤー、そして膜というどれかひとつでも欠けると成り立たない最小限の部材で非常に軽やかにパビリオンを設計しており、テーマを深く理解し寄り添う姿勢と柔軟な発想に感銘を受けるとともに今後の自分の設計時における学びを得た。
また、設計のプロセスにおいても、講演タイトルの通り一本の針金を曲げてスタディを繰り返していったり、手書きのスケッチでイメージを共有しながらクライアントと議論を進めていくなど、最初から完成系を作り込めることが出来るデジタルツールを使うのではなく、柔軟性をもつアナログな手法で余白を持たせることの重要性も再認識した。
R185:打越優音
今回は大阪・関西万博でシグネクチャーパビリオン「生命のやわらかさ」を設計した橋本尚樹氏に講演していただいた。橋本氏の講演を通して橋本氏が設計した建物着想から完成に至るまでの流れや建物を設計する際の考え方などについての知識を得ることが出来た。その中で私は建物の案が決まるまでの橋本氏の挑戦する姿や考え方にとても関心を持った。とくに講演の中で橋本氏が出した「合理と非合理のバランス」というキーワードとその非合理の中で構造を考えることが大事だと話しており、社会では構造や実用性などの観点から合理性を求められることが多いが、非合理性の部分を考えた上で合理性を持ってくることで橋本氏が設計したような柱が無くても成り立つ建物のような自由な設計が出来ていくのだと感じた。また、橋本氏は経験談の中であくまで建築を作っていることを忘れてはいけないと話しており、この話は普段設計を行う際に合理性の部分が強くなってしまい思ったようなものを作ることが出来なかった自分にとって心に刺さった。そのため、これから自分の設計では前よりも非合理性の部分をより考えるように意識して行い、今まで出来なかった形や手法を用いた設計への挑戦をしていきたいと強く思った。
R186:加藤緋奎
橋本尚樹氏のレクチャーを通じて、建築が目に見えない概念を空間として可視化できることを改めて実感した。大阪・関西万博のいのち動的平衡館では、巨大なリングとワイヤーのみで構成された屋根が、動的平衡という思想を建築として体現しており、構造そのものが哲学的テーマに寄り添う姿に深い衝撃を受けた。
丹波山村新庁舎では、地域の風景に溶け込みながらも、村民が自然に集える居場所となるよう繊細に設計されていた。土砂災害への備えという強度と、外部に開く柔らかな公共性を同時に実現する姿勢は、守る建築と開く建築を二項対立で捉えていた自分の固定観念を見直すきっかけになった。
さらに玉造幼稚園では、深い森や地形をそのまま受け入れ、建築と遊びと自然の境界が溶け合う環境がつくられていた。回廊が森であり教室であり遊具でもあるという多義的な空間は、子どもの経験を豊かにする建築の力を示していると感じた。
三つの事例を通して、橋本氏が環境、文化、人、時間といった要素を読み取り、建築空間として具体化している姿勢に大きな学びを得た。今回のレクチャーで得た学びは、これから自分が建築を設計するときのスタンスに大きな影響を与えていくと考える。
R187:白倉海翔
橋本氏の講演を通じて、多くのことを学ぶことができた。パビリオンでは、社会的意味などを考えた作品であったが、その他の作品は自身の感覚というのを大事にされている方だと感じた。終盤に仰っていた、「社会的意味などを述べていると意匠などで矛盾が生じる。それに対して直感的にいいと思ったものです。っていった方がよっぽどいい作品が作れる」こういった言葉を聞いて最終的に自信が良いと思ったものを提案できるようになりたいと感じた。
ただ、私の大学の習慣として、社会的意味が重視されがちである。そのため動的平衡というワードから建築へ昇華させたパビリオンの話はとても興味をそそるものであった。概念やワードから建築へ昇華させるのは矛盾が生まれがちだと考えている。しかし、今回のパビリオンに関しては意匠から構造に至るまでこの概念を模したものであった。それは代謝というのを意匠でも構造でも表しており、私の卒業設計の手助けとなった気がする。
R188:橋本咲紀
2025年大阪・関西万博「いのちを知る」パビリオンについて、建築家・橋本尚樹氏の講義を受講し、その設計思想に強い感銘を受けた。
橋本氏は、建築に不可欠な「構造的安定性」という前提を保ちながら、自然が持つ流動性や可変性を積極的に取り込もうと試みている。橋本氏が目指したのは、固定された建築ではなく、生命のように“動き続ける建築”である。
講義では、初期スタディとして一本の針金を曲げるという極めて素朴な手法から検討を開始し、形態・構造の両面で多くの試行錯誤を重ねた過程が紹介された。この反復的な検証は、「動的平衡」という生命観を、概念的なスローガンではなく建築構造として実装するためのプロセスであり、構造的課題を創造的な発想へと転換する姿勢が印象的であった。
また、デジタルツールが主流となった現在においても、橋本氏が手描きのスタディやパースにこだわり続けている点は特に強く心に残った。手を動かす行為によって空間の“ゆらぎ”や“質感”を直観的に把握し、それを設計に反映させる姿勢は、橋本氏が建築を単なる技術体系ではなく、詩的で感性的な創作行為として捉えていることを示しているのではないかと考えさせられた。
今回の講義を通して、建築を生命の器として捉える視点や、アナログな思考とデジタル技術の相互補完的な関係性の重要性を改めて認識した。これらの考え方は、今後自身が設計を行う上でも大きな示唆を与えるものである。
R189:羽山和
橋本尚樹さんの今回の講義は、建築やものづくりの裏側にある、熱くて地道なプロセスを感じさせてくれる時間だった。特に心に残ったのは、今回の万博パビリオンでは、完成までの道のりに無数のスタディがあり、最終的なヒントが「一本の針金」という小さなスケールから生まれたという話である。講義の中で「建築の可能性を揺るがしたい」と言っていた部分の証明のように感じられた。形はある種偶然ではなく、素材や空間と“ド正面から”向き合い続けた、橋本さんの誠実な姿勢が結晶化したものが「いのち動的平衡館」だと思った。特に今回のパビリオンは決して整った外形ではなく、人の感覚や状態に働きかける建築であり、自分が建築に興味を持った理由とも重なり、空間をつくる目的について改めて考えるきっかけとなった。
さらに、他プロジェクトの話での手描きのスケッチで思考しながら提案していく姿勢も印象的だった。現代は高性能なソフトに頼りがちで、すぐに3Dのような完璧な結果を出してしまいがちですが、手書きによる案の未熟さがむしろ相手の想像力を引き出し、クライアントとの信頼につながるという話は、これから自分が設計プロセスを考えるうえで大きなヒントになった。
R190:平野鈴奈
今回の講演では、万博の「いのち輝く未来のデザイン」を「一本の針金」の軽やかなデザインに対し構造的な建築の挑戦を行うことで動的・生命的な建築に完成させたことを伝えてくださった。その中でも、特別印象に残ったことは、建築に対し導入した生命観である。通常ではコンピューターを使用して図面などをつくりこれをもとに実際につくるが、橋本氏の「いのちの動的平衡館」は曲線で、膜状の屋根構造を張力で保つ繊細な構造であったため、逆の手順がとられていた。これはデジタルデバイスの利便性の限度を超えたパビリオンであったことだと認識したと同時に、建築という構造・静的・剛性的存在から相反する動的・柔軟性的であることを建築に落とし込み表現を可能にしたということに対し感銘を受けた。今回の万博で橋本氏は、材質は針金を使用していたが、軽く柔軟性がありながらも人工的なものを曲線にすることで、生命をはかなさ・柔らかさ・繊細さを、それらを支える構造は生命の意外な頑丈さ・軸・生命力そのものを表現していると感じた。
万博を訪問し「いのちの動的平衡館」を初見したときは、ひとつの曲線で完成されたものであり、図面から実際の形状に完成させることに苦戦したとの考察だけが印象であった。しかし、その造形の裏には構造の緻密さあってのパビリオンであったことを講演から知ることができたことから、非常に有意義な時間を過ごせた。改めて、今回ご講演いただいた橋本氏に感謝の意を示したい。
R191:山内結稀
橋本尚樹さんのセミナーを通して、建築を「生命的な構造」として捉える視点に強い刺激を受けた。大阪万博のパビリオンでは、構造の形態の決定に3D解析を用い、軽い材料でも成立するバランスを探ったという話が特に印象的だった。このセミナーでは「動的平衡」という言葉が何回か出てきており、橋本氏は生物がつくる構造は壊されることを前提とした「動的平衡」にあり、あらゆる部材が少しずつ関わりながら全体が成立すると語っていた。この考え方は建築を静的な物体としてではなく、変化し続けるものとして捉えるメタボリズム的視点と重なり、建築の可能性を広く感じさせるものであると感じた。
また、一本の針金を曲げてスタディ模型をつくるという原初的なアプローチから形の変遷を何度も繰り返し、完成までに二年かかったというプロセスの重みも感じられた。役場の設計では災害時の安全性を考えて山崩れから守られる構造にするなど、地域の実情を踏まえたデザイン姿勢が印象的だった。議場を普段はオープンにし、必要に応じて可動間仕切りで変化させる柔軟な空間の考え方は、橋本氏が大切にする動的な発想が表れていると感じた。
卒業設計や修士研究の経験が現在の設計思想につながっていることも知り、建築家としての思考の積み重ねの大切さを改めて実感したセミナーだった。
R192:吉野仁輝
橋本尚樹氏の講義を聞き、建築という概念に対する挑戦と建築を通してものづくりの本質に向き合う姿勢を強く感じた。建築物は当たり前のことであるが、現実世界に堅固な存在として建っていなければいけない。橋本さんはそんな概念を設計の初期段階では一旦取り除いて空間のイメージを形づくり、それをいかにして現実世界の建築として成立させるかを考えるという2段階の考える動作で設計を行っているのが非常に特徴的であると感じた。
大阪万博における命の動的平衡パビリオンでは、福岡博士の提唱した概念、コンセプトを元に細胞分裂をモチーフとした無柱空間のパビリオンを空間イメージとして立案し、そこから3D解析を用いつつどのような構造であればそれが実現するかをスタディし、実現できるギリギリの構造で成立させている。
この過程は学生設計に非常に近いように思えた。空間のコンセプトを立案しその実現可能性をどこまでも追い求め実現させる、実施設計ではアンビルドな学生設計と違い、色んな障壁があり、また設計の切り口も様々ある中でこの学生設計に近いしい過程を実施設計で実現させているのにとても衝撃を受けた。
自身の設計でも、初期の空間イメージを大切にし、それをどのようにしたら実現できるのか考え工夫していこうと改めて思うきっかけになった。
R193:青木柊真
今回は、橋本尚樹氏による「一本の針金」というテーマでご講演して頂いた。講演を通して、橋本氏の自分の内から湧き出る衝動を信じ、形にすることこそが建築家の醍醐味であるというものづくりを正面から貫く姿勢に大きな感銘を受けた。特に、この衝動を社会的な制約や構造的な課題に真っ向からぶつけ、泥臭く実現していくプロセスは、建築の創造性を追求する上で重要な示唆を与えてくれた。
万博のシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」では、生物学者・福岡伸一氏の「動的平衡」という概念を、構造的な挑戦として具現化したプロセスを紹介され、鉄のパイプを極限まで曲げ、ワイヤーで張力をバランスさせることで、柱のない浮遊感のある空間を実現していた。「いのち」や「生命としての動き」を構造として具現化するという一見すると非合理的に思えるアプローチを実現させたところに、技術の限界に挑むことで、従来の建築では得られない感動的な空間が生まれたのだと感銘を受けた。
今後私が建築に携わり設計を行う際、以前は条件整理や社会的意義といった「合理性」に偏りがちだったが、今後は「私はこう思った」という強い内的主張をデザインの核に据え、それを技術や構造で裏付けていく姿勢も大切にしたいと感じた。
R194:荒木才貴
今回の講演では、万博パビリオン「エンブリオ」の設計や施工の過程を知ることで、建築の可能性について大きな気づきを得た。柱のない内部空間が細胞分裂していくように広がる形態は、これまで自分が見てきた集合住宅の施工現場とはまったく異なり、どのような思いで形をつくり、どのように現場で実現していったのかを知ることで、建築の“つくり方そのもの”がとても面白く感じられた。
特に印象に残ったのは、橋本氏が「構造をつくるのではなく、建築をつくる」という姿勢だった。学校では実際に建ち上がる建築を考えると固い形になりがちだが、構造や施工の理解を前提にすれば、空想のような建築でも実現できるという話に強く心を動かされた。建築は“わからない”ところから始まるという言葉にも共感し、未知の部分を恐れずに形を考えていくことが大切だと感じた。
今回の講演を通して、建築はもっと自由で、もっと可能性に満ちていることを知った。橋本氏の姿勢を参考にしながら、これからの設計や製図にも、自分なりの視点で積極的に取り組んでいきたい。
R195:安藤勝美
橋本さんの講義を聞き、スタディの面白さや構造的な気づきから空間が発展していく可能性を改めて感じた。「エンブリオ」のお話の中で、一本の針金とティッシュ・スチレンボードで作った最初のアイデアを、構造的に成立させるためのスタディの過程が特に印象的だった。
「動的平衡」という概念を構造として捉え、最終的な形が生まれたときに、まるで生物がつくるもののように「部分」や「途中」が感じられないこの形になるべくしてなったと思わせる建築だと感じたので、スタディの過程を知れたのはとても貴重な経験だと思った。
また、橋本さんのお話から役場は木でつくろうと考えたことや、動的平衡を構造で表現しようとしたことなど、最初に抱いたイメージや「こうしたい」という思いを非常に大切にしていると感じた。
今回の講義を通して、私自身も、やりたいことのために徹底的に突き詰め、挑戦する姿勢を大切にしていきたいと思った。
R196:石井克弥
今回の講演を聞いて感じたことは、建築はもっと柔軟に自由に想像しデザインすることができると感じた。
例えば万博の「エンブリオ」ではスタディ段階での針金を曲げ、その形が建物を支える一本の鋼管としての役割を成すところまで考える柔軟な思想にとても感銘を受けた。
自分はよく序盤のスタディではそういった柔軟な考えを持たずにただ面白い形だからという理由でデザインをすることがある。
今回の講演を聞いて一つ一つのスタディに意味を持って取り組みたいと感じた。
またよく手書きのパースを書くという部分にも興味があった。
自分もよく手書きでパースなどを仕上げているがその理由は温かみが出て人の動きが軽やかに想像できるからだまだ橋本さんのような手書きパースはかけないが少しでも近づけるように日々邁進していきたいと今回の講演を聞いて思った。
R197:片山絢賀
今回の橋本尚樹氏の講演では、建築やまちづくりをすることの楽しさを再確認する機会となった。完成するまでの地道なプロセスを聞き、魂の底から出てきたものこそが建築であると感じた。静的な建築を単なる構造物として形づくっていくのではなく、自分の中の感情や衝動が出発点になるのであろう。
特に印象的だったのは、「構造をつくるのではなく、建築をつくる」という言葉だ。大阪万博の「いのちの動的平衡館」において、生物学者・福岡伸一氏が述べる“動的平衡”という動的な生物学を、静的だと思われがちである建築に重ね合わせ、橋本氏は建築を「一瞬のバランスの上に成立する動的な存在」と捉え直していた。そうした建築を生命のように扱う視点は、建築の可能性を探求する姿勢にも体現されていると感じた。繰り返しのスタディによって合理的な方法を探り続ける姿勢が印象的だった。
講演を通して、社会の状況を理解しながらも、自分がこうしたいと思う気持ちを軸に建築やものづくり、さらに人との関わりを楽しみ続ける大切さを学んだ。私も今後の設計において、この姿勢を忘れずに取り組んでいきたい。
R198:木澤佳苗
大阪万博のパビリオンを設計した橋本さんのお話。橋本さんが設計したシグネチャーパビリオンの1つである『いのち動的平衡館』は曲線美がとにかく美しい建物であった。この建物内では「いのちを知る」をテーマにした展示を行なっており、建物にあった曲線美はまさに生命を表しているのではないかと思え、まさにうつろいゆく生命のような建築であった。また外観のデザインは動画内では「細胞膜が一部貫入して細胞分裂を今まさに行おうとしている」と評価しているが、私には母親が赤子を抱きしめようとしているイメージのように思えた。このような美しいデザインの建物が壊されるのはとても悲しい。私は現在万博に行って現地でこれを見ておくべきだったとひどく後悔している。
R199:佐藤天馬
橋本尚樹氏のパビリオン「いのちを知る」の講義を通して、建築で動的平衡という概念的なものを表現することの驚きとその難しさを学んだ。講義内では何回も試行錯誤してる様子が伺え、僕たちとは比べ物にならない量のスタディを繰り返していた。特に「針金 1 本で考える」という話は、その名の通り針金 1 本でスタディを繰り返し行っており、3D やデジタルを使わず、素朴な素材 1 つで考えることに感銘を受けた。この素材の制約を通して本質的な構造や空間の構成を考える、無駄なものが無く表層的なデザインに頼らない姿勢が印象的だった。
また、「いのち」という抽象的で答えのないテーマに対して、明確な意味や意義を建築に与えようとする設計プロセスはデザインが単なる造形ではなく、思想などが含まれ易いと思う。その点、完成形よりもそこに至るまでに何を考えて設計をしたのかがすごく興味深い作品であり、今後自分が設計を行う上でも大きな指針になると感じた。
R200:中塚桜子
万博のパビリオンを作成するにあたっての過程の中で、生物学者の福岡真一先生の意見を取り入れたとの話があった。レクチャーの中で、生物の形というのは、必ず全体に寄与し、何等かにとって意味のあるカタチとなっているとのお話があった。これは、壊れることも前提としていて、部分もない、途中もない、完成したら完成。という、生命らしさを意味しており、それがリングというカタチで表現されているのだとのことだった。私は、このお話について興味があったので、レクチャー後に家でも福岡真一先生の考え方について調べてみたところ、パビリオンは、生命が「動的平衡」を保ちながら、うつろいゆく流れの中で、ひととき自律的な秩序を表す姿を体現しており、光のインスタレーションによって、生命観を根底からやさしく揺さぶり、生きること・死ぬことの意味と希望を再発見する体験を届けたいという思いが込められていると読み解けた。
これらを踏まえて、建築とはその建物自体が何を表現しているのか、ということももちろん重要だが、その建築物がパビリオンであるときはなおさらのこと、それ以上にヒトという媒体がその空間内に入り込んだときに何を感じるのか、何を感じ取ってほしいのか、それを感じることによって何が得られるのかということが重要なのではないかと思った。一つの大きなテーマ(今回は生命)があり、そこから建築を通じて、人それぞれ考えるようなものがパビリオンとしてふさわしく、求められているのではないか、と考える。
今回のレクチャーを通じて、今後自分がパビリオンを訪れる機会があった時には、どういったことをテーマとしていて、そこから自分は何を感じたのか、一緒に訪れた人は何を感じていたのか、自分との違いは何なのか、といった話をしてみたら面白いのではないか、とも思った。
R201:沼尻乃亜
大阪万博「いのち動的平行間」は生物学者の福岡伸一の考えをもとに、細胞分裂をモチーフとした建築である。建築を“生命化”するという発想のもと、すべての部材が必要不可欠で、どれか一つが欠けても成り立たない構造になっているという点が印象に残った。
正直、“生命的”という言葉は少し難しかったが、「すべてがつながっている」ということなのかな、と感じた。建物全体が一つの有機的な存在として、動きや関係性の中で成り立っているということだと思う。構造的にも、太いパイプを溶接して地面の基礎とつなぎ、ケーブルを引っ張って幕を張る仕組みになっている。
一方、丹波山村新庁舎は、山を背後にした立地が特徴的である。山崩れの危険を考慮しながらもコンクリート構造で安全性を確保しており、自然と共に生きる建築の姿勢を感じた。
また、この建物は約500人の集落のためを考えて、木造にこだわって建てられている。単なる行政施設ではなく、人と人とをつなぐ「村の居場所」のような建築だと感じた。
R202:松﨑 美咲
今回の橋本尚樹氏による講演では、大阪万博のパビリオンのひとつである「いのちの動的平衡館」をはじめとする様々なプロジェクトのお話をしていただいた。その中でも特に印象的であったプロジェクトは、山梨県にある人口500人の集落での丹波山村新庁舎の設計である。人口が減っていく将来を考え、議場をまた新たに設計するのではなく議場を開いた空間にし、地域の方々にも使ってもらえるように設計されている。初期段階で木をマストで使用しようと考えを変えずに、背後の山にコンクリート構造で対応する設計は、デザインと構造を一緒に考えることの重要さに改めて気づかされた。今後の自身の設計に生かしたいと強く感じた。また、この山梨県丹波山村の役場のプロジェクト、千葉県成田市の幼稚園のプロジェクトに関しては、手書きのパースと実際に完成した建築物のイメージがほとんど変わっていないことに驚いた。今回の講演を通して、建物の構造と想像からくるデザインは、時間をかけスタディを進めていくことで2つが上手く縫い合わさっていくことを学べた。
R203:溝口礼央
今回の橋本さんによるイブニングセミナーでは、パビリオンの設計過程が印象に残った。一見自由でなめらかな曲線に見える「いのち動的平衡館」だが、実際は3d解析などによる果てしない数の試行回数の形の変遷により、少ない材料の集合で軽く作られ。どの辺が欠けてもリングが支えられないということを知り衝撃を受けた。
また、手書きでパースなどを書くことを重要視しているところに感銘を受けた。実際に今、設計の授業で手書き指定されて疑問に思っていたので、橋本さんの考え方を聞いたことで考えを改める機会になった。
セミナー全体を聞いて橋本さんは、他の人が面倒くさがったり、意味のなさそうなことでもちゃんと突き詰めることで結果を残してこられたように感じた。
今後の設計では橋本さんの設計に対する姿勢を参考にしながら取り組んでいきたい。



